はじめに
外国人労働者を受け入れる中小企業のM&Aで、2026〜2027年にかけて新しい論点が浮上しています。2024年6月に公布された改正法に基づき、技能実習制度に代わる新たな仕組みとして「育成就労制度」が公布後3年以内(2027年6月までに政令で定める日)の施行が予定です(関係省令は2025年9月に公布)(出典: 出入国在留管理庁、改正入管法・技能実習法 2024年6月公布/関係省令・告示 2025年9月公布)。技能実習生を抱える製造業・建設業・農業・介護・食品加工などの中小事業者にとって、譲渡実行のタイミングと制度移行のタイミングが重なる案件が、これから2〜3年で続出する見込みです。
育成就労制度は、技能実習制度が抱えていた「実習生の転籍が原則認められない」「実態として労働力確保の手段になっていた」という問題を制度的に整理し、人材育成と人手不足対応を明確に位置づけた仕組みです。M&A時の労務DDでは、対象事業者が抱える外国人労働者の在籍状況・監理団体や登録支援機関との契約・賃金条件・計画変更認定の手続——これらを譲渡実行前に確認しないと、譲渡実行後に在留資格の継続が困難になる事態が起きえます。
育成就労制度の構造、M&A時の在籍状況DD、監理団体・登録支援機関との契約条件、賃金・労働条件の論点、計画変更認定の手続、PMIでの移行ロードマップ——技能実習生を抱える中小M&Aで譲渡実行前に押さえるべき論点を、順に整理します。読者の関わる案件で、対象事業者の技能実習計画認定証と現在の在籍者リストの照合は済んでいるでしょうか。
技能実習生を抱える中小M&Aでは、譲渡実行と在留資格の継続を両立させる手続が必要です。計画変更認定には標準2〜3ヶ月、書類差し戻しを考慮すると半年程度かかることもあり、譲渡実行と並行して動かさないと、外国人労働者の就労継続が制度上不安定な状態になります。
育成就労制度——技能実習からの移行構造と2027年施行の論点
育成就労制度は、2024年6月に公布された改正出入国管理及び難民認定法・改正技能実習法に基づき創設される、特定産業分野での外国人材受入れの新しい枠組みです。施行日は公布日(2024年6月)から3年以内、つまり2027年6月までに政令で定める日とされ、2025年9月には関係省令が公布されました。具体的な施行日は政令で確定する建付けで、M&Aのスケジュールを引くときは「2027年6月までのいずれかの日に施行される」を前提に置くのが安全です。
技能実習制度との主な違い
両制度の違いは、まず制度の目的に表れます。技能実習が「技能等の移転による国際協力」を建前にしていたのに対し、育成就労は「人材の育成と確保」を明確に目的化しました。これに伴って受入分野も、技能実習の対象職種から、特定技能の特定産業分野に近い形で再整理されています。
実務に直接効くのは転籍の扱いです。技能実習では原則認められなかった転籍が、一定要件下で本人の意向による転籍も可能になります。加えて、育成就労3年修了後に特定技能1号へ移行する明確な制度設計が組み込まれ、キャリアの接続がはっきりしました。受入れを支える側の構造も変わり、監理団体(技能実習)の制度から監理支援機関への再編・要件強化が進みます。
移行期の論点
育成就労制度の施行に伴い、現在技能実習生を受け入れている事業者は、既存の技能実習計画を継続するか、育成就労へ移行するかの判断を迫られます。技能実習制度自体は経過措置を経て段階的に廃止される予定で、施行後しばらくは新旧制度が併存する局面が続きます。
M&A時には、対象事業者が現在抱える外国人労働者が「技能実習生」「特定技能労働者」「身分系(永住者・日本人配偶者等)」のどれに該当するか、育成就労への移行計画があるかを確認する作業が、労務DDの新しい論点として浮上します。
育成就労施行を見据えた譲渡前のロードマップ整理
食品加工業の中小事業者の譲渡で、技能実習生15名と特定技能労働者8名を抱えていました。譲渡側理事長は「技能実習がなくなる」という漠然とした不安を持っていましたが、育成就労への移行スケジュールは具体化されていませんでした。譲渡実行を半年後に予定する案件で、買い手側と譲渡側で育成就労移行のロードマップを整理しました。
具体的には、現在技能実習中の15名を技能実習計画満了まで継続、満了後に育成就労または特定技能1号へ移行する計画。特定技能8名は引き続き在留期間更新で運用継続。譲渡実行と同時に監理団体・登録支援機関との契約承継を完了させ、新オーナー体制での外国人材受入れ計画を整える設計に組みました。育成就労施行を見据えた事前のロードマップ整理が、譲渡実行と労務継続の両立を支えます。
M&A時の在籍状況DD——人員構成と在留資格の確認
外国人労働者を抱える事業者のM&Aでは、在籍状況のDDが労務DDの中核になります。技能実習生・特定技能労働者・身分系・育成就労者(施行後)など、在留資格別の構成と、それぞれの満了時期・更新可能性を一覧化します。
在籍状況のDDで確認する項目
確認の起点は人員構成です。技能実習1号・2号・3号、特定技能1号・2号、身分系、その他という在留資格別の人数を押さえ、そのうえで個人別の在留期間満了月を一覧化し、譲渡実行後3年間の更新スケジュールに落とし込みます。あわせて、技能実習計画認定の有効期限や特定技能の支援計画の状況といった、受入計画・在留資格認定証明書の有効性も確認します。
次に見るのは過去の履歴です。監理団体や出入国在留管理庁からの指導・違反認定、改善命令の履歴があれば、譲渡後の運用に影を落とします。過去3年での失踪・自己都合帰国の人数と率は、現場の定着状況を映す指標になります。さらに、受入企業・実習実施者の変更があった転籍の発生状況も、計画変更手続の前提として確認しておきます。
譲渡実行後の在留資格継続
ここで注意したいのは、計画変更認定の要否がスキームで分かれることです。実習実施者は法人なので、株式譲渡で支配権(株主)が変わっても法人格そのものは変わりません。この場合、実習実施者の変更には当たらず、計画変更の認定が必須にならないケースがあります(ただし役員変更などに伴う届出は別途必要で、実態に応じた個別確認は要る)。一方、事業譲渡や会社分割で受入主体となる法人そのものが変わるときは、実習実施者の変更にあたり、計画変更の認定または再認定の手続が必要になります。「支配権が変わったら一律で認定が要る」と思い込むと、株式譲渡で不要な手続を見込んだり、逆に事業譲渡で必要な手続を見落としたりするので、スキームに沿って切り分けるのが起点です。
いずれのスキームでも、技能実習計画認定や特定技能の支援計画が自動的にそのまま続くわけではない点は共通します。手続が必要なケースでそれが間に合わないと、外国人労働者の在留資格更新ができなくなり、就労継続が不安定な状況になります。
譲渡実行と労務継続を両立させるには、譲渡実行3〜6ヶ月前から監理団体・登録支援機関・出入国在留管理庁との協議を始める必要があります。仲介の標準スケジュールではこの協議が組み込まれないことも多いため、譲渡側オーナーから能動的に動くことが現実的なアプローチになります。
スキームの選択で計画変更認定の要否そのものが変わった案件
金属加工業の譲渡で、技能実習生15名が在籍していました。当初は会社の一部門だけを切り出す事業譲渡で話が進んでいて、買い手側はその前提で計画変更認定の準備に入っていました。ところが在籍者リストと技能実習計画認定証を突合する過程で、譲渡側の社労士が「事業譲渡だと実習実施者が丸ごと入れ替わるので、15名全員ぶんの計画変更認定をクロージングまでに取り切るのは時間的に厳しい」と気づきました。
そこで筆者が買い手側に確認したのは、スキームを株式譲渡に寄せられないか、という一点でした。買い手側の意向は事業の一部だけの取得でしたが、対象会社の他事業も含めて株式で取得し直す形に組み替えられた結果、実習実施者である法人格は維持され、計画変更認定そのものを回避できました。届出レベルの手続は残りましたが、認定審査の数ヶ月を待つ必要がなくなり、クロージング日を動かさずに済みました。外国人労務は「手続をどう速く回すか」の前に、「スキームの選び方で手続自体を増減できないか」を先に検討すると、スケジュールの自由度が大きく変わります。
監理団体・登録支援機関との契約——契約条件・引継ぎ・解約金
外国人労働者を受け入れるとき、技能実習では監理団体、特定技能では登録支援機関との契約が必要です。育成就労制度では、監理団体の制度を発展させた「監理支援機関」が設けられる予定です。M&Aでこれらの契約をどう承継・見直しするかが、労務DDの実務的な論点です。
監理団体・登録支援機関との契約のDD観点
まず契約そのものの条件を読み込みます。監理費・支援費の月額、契約期間、契約条件の見直し条項を押さえたうえで、譲渡実行で会社の支配権が変わる場合の事前同意要件や契約継続条件を定めた支配権変動条項(COC条項)の有無を確認します。あわせて、譲渡実行に伴って契約を解除する場合の違約金・解約条件も見ておかないと、想定外の費用負担につながります。
加えて、相手方の実績にも目を向けます。当該監理団体・登録支援機関での過去の不適合事案や行政処分の履歴があれば、承継のリスク要因になります。育成就労施行を見据えるなら、監理支援機関への再編に伴う対応方針や、移行サポートの提供有無も確認しておくと、施行後の運用がスムーズになります。
監理団体・登録支援機関との契約は、M&A契約書類の中で見落とされがちな部分です。契約書のCOC条項や違約金条項を確認しないまま譲渡実行に進むと、想定外の費用負担や契約解除が発生することがあります。
監理団体の質と外国人労働者の定着率
監理団体・登録支援機関に質の差があるのは言うまでもありませんが、DDで効くのは「優良かどうか」より「この団体が新オーナーと相性が悪くないか」の見極めです。譲渡側オーナーが個人的な付き合いで選んでいた監理団体は、オーナー交代後に関係が冷え、訪問頻度や相談対応が落ちることがあります。逆に、支援が形式的でも地域で実習生のネットワークが太い団体は、失踪の初動で他社からの情報が入りやすいという見えにくい強みを持つこともあります。M&A時には、契約書面上の質だけでなく、新体制に切り替わったあとも機能し続ける関係かを確認し、必要なら譲渡実行と同時に変更する選択肢も検討します。ただし変更には新団体での受入実績の積み直しが要るため、安易な切替がかえって現場を不安定にする面もあり、変えるなら理由と段取りをセットで持つことが前提です。
監理団体の支援不足で失踪率が高かった案件
建設業の譲渡で、技能実習生10名を受け入れていました。直近1年で2名の失踪が発生していて、譲渡側理事長は「最近の若者は」と語っていました。監理団体の支援実態を確認すると、月次訪問・通訳対応・生活トラブル対応が形式的で、実習生からの相談に十分対応できていない構造でした。同地域の他の監理団体の支援実態と比較すると、明らかに支援不足でした。
譲渡実行と同時に、より支援実態の手厚い監理団体への変更を進める方針に切り替えました。買い手側の関連企業で利用実績のある監理団体に切替え、外国人労働者の生活支援を強化する設計です。譲渡側理事長が「若者の問題」と捉えていた失踪率の高さは、実は監理団体の支援品質の問題でした。M&Aを機に支援体制を見直すことで、PMI後の労働力安定化につなげられた案件でした。
賃金・労働条件のDD——日本人同等以上要件と労務簿外債務
外国人労働者の賃金は、技能実習法・特定技能制度・育成就労制度のいずれにおいても、「日本人と同等以上」の水準が法令上の要件です。実態として最低賃金水準の支給に留まっている事業所では、譲渡後に労働条件の見直し圧力が掛かるか、過去の支給実態を巡って労働局からの指導・労務トラブルが発生するリスクがあります。
賃金・労働条件のDDで確認する項目
確認の中心は給与水準です。外国人労働者の給与を、同等業務の日本人従業員、そして地域・業種の最低賃金と対比します。あわせて、賃金規程・就業規則が外国人・日本人で別規程になっていないか、差別的待遇がないかを点検し、残業代・深夜割増といった割増賃金が外国人労働者にも適切に支給されているかを確認します。
控除と外部費用にも注意が要ります。食費・住居費等の控除が適正か、過大な控除になっていないかを見たうえで、送出機関に支払う費用や本人負担の保証金が法令違反になっていないかを確かめます。最後に、外国人労働者の労務管理について過去の労働局・労基署の指導・違反履歴があれば、簿外債務の手がかりとして掘り下げます。
労務簿外債務のリスク
外国人労働者の賃金が「日本人と同等以上」要件を満たしていない場合、過去の支給実績との差額が未払賃金として遡及請求される可能性があります。労基法115条の賃金請求権の消滅時効は本則5年・労基法附則143条3項により当分の間3年とされる(出典: 厚生労働省「賃金請求権の消滅時効期間の延長」、改正労基法 2020年4月施行)ため、過去3年分の差額が請求対象になりえます。
住居費・食費の過大控除も、出入国在留管理庁の指導・労働局の指導で問題視されえます。一律で給与から大きな金額を控除している事業所では、過去分の返還リスクが残ります。M&A時には、外国人労働者の賃金台帳・控除明細を直近24〜36ヶ月分突合し、簿外債務の規模感を試算する作業が必要です。
外国人労働者の住居費控除が問題視されかけた案件
農業生産法人の譲渡で、技能実習生12名の賃金台帳と控除明細を確認しました。給与は地域最低賃金と同水準で、月額住居費として一律3万円が控除されていました。社長は「日本人パート従業員も同じ住居を提供しているので問題ない」と説明していました。実際の住居(実習生用の寮)の固定資産税評価額・近隣賃貸相場と比較すると、3万円の控除は概ね相場感に収まっていましたが、共用部分や食事提供の有無で構造が複雑でした。
監理団体経由で出入国在留管理庁の指導状況を確認すると、過去に同地域で類似の控除水準で指導が入った事例があり、「適正な実費精算」の根拠資料が求められる構造でした。譲渡実行と並行して、住居費控除の根拠資料の整理、必要に応じて控除水準の調整を進めました。外国人労働者の控除関係は、譲渡実行前に「適正な実費精算」を立証できる体制にしておくことが、譲渡後の労務リスクを下げる作業です。
計画変更認定の手続——譲渡実行と在留資格更新の連動
技能実習計画は、受入企業(実習実施者)が外国人技能実習機構の認定を受けて運用される仕組みです。M&Aで実習実施者そのものが変わるとき——典型的には事業譲渡や会社分割で受入主体の法人が入れ替わるとき——は、計画変更の認定または再認定が必要で、手続が完了するまで実習生の在留期間更新が円滑に進まなくなる可能性があります。株式譲渡で株主だけが変わり法人格が維持される場合は、この認定が必須にならないこともあり、まずスキームで要否を切り分けるのが手続設計の出発点です。以下のスケジュール感は、認定手続が必要になるケースを前提にしています。
計画変更認定のスケジュール
| タイミング | 必要な対応 |
|---|---|
| 譲渡実行3〜6ヶ月前 | 監理団体・出入国在留管理庁・外国人技能実習機構との事前協議 |
| 2〜4ヶ月前 | 計画変更認定申請書類の準備・提出 |
| 1〜3ヶ月前 | 機構による審査、書類差し戻し対応 |
| 譲渡実行と同時 | 計画変更認定の取得、必要書類の整備 |
| 譲渡実行後 | 在留期間更新時の手続継続、新しい受入体制での運用 |
特定技能の支援計画の見直し
特定技能労働者を受け入れている場合、登録支援機関との支援契約・支援計画の見直しが必要です。会社の支配権が変わるとき、登録支援機関を継続するか変更するかの判断、支援計画の更新手続を進めます。在留期間更新時には、最新の支援計画と支援実績が出入国在留管理庁に確認されるため、計画と実態の整合性を保つ作業が重要です。
育成就労制度の施行(2027年6月までに施行)後は、技能実習からの段階的移行が始まります。M&A時の計画変更認定は、新旧制度の併存期にどう手続を進めるかで複雑化することがあります。出入国在留管理庁・外国人技能実習機構(育成就労施行後は外国人育成就労機構に改組予定)の運用通知を継続的にフォローし、最新の手続要件で進めることが必要です。
差し戻しの本当の原因が「買い手の財務」だった案件
製造業の事業譲渡で、技能実習生20名の計画変更認定を進めていました。譲渡実行2ヶ月前に申請したところ、外国人技能実習機構から差し戻しが入りました。当初、現場は「実習計画の細部の書き方の問題」と受け止めて、計画書の文言修正で再提出しようとしていました。
ところが指摘事項を一つずつ読み解くと、本丸は受入企業(新オーナー側の受け皿法人)の財務状況の追加資料でした。設立間もない受け皿法人に十分な事業実績がなく、機構が「この法人が実習生を継続して適正に受け入れられるのか」を確認したがっていた、というのが筆者の読みでした。文言修正をいくら重ねても通らない種類の差し戻しで、ここを取り違えると再提出を何往復もして時間を溶かします。対応として、親会社による債務保証や受入実績の補足資料を揃え、機構との事前面談で受入体制を口頭でも説明する段取りに切り替えました。差し戻しは「何を直すか」より「なぜ止められたのか」を先に見極めることが、再審査の往復回数を決めます。
育成就労制度移行のロードマップ——PMI設計
育成就労制度の施行に伴い、現在技能実習生を受け入れている事業者は、計画的な移行が必要になります。M&A後のPMI(買収後の経営統合)の中で、外国人労務の体制をどう設計するかが、買い手側にとって重要な論点になります。
PMIで整備すべき外国人労務の体制
移行期の基本は、新旧制度の併存運用です。既存技能実習生は計画満了まで継続し、新規受入は育成就労または特定技能で開始します。これに合わせて監理体制も、(旧)監理団体から育成就労制度下の監理支援機関への切替・要件適合を準備します。育成就労では一定要件下で転籍が認められるため、転籍を受け入れる体制の整備も必要になります。
処遇面では、「日本人同等以上」要件を満たす給与水準への見直しと、住居費・食費控除の適正化を進めます。さらに、技能実習→特定技能、育成就労→特定技能の移行を見据えたキャリアパス・育成計画を描き、通訳・翻訳・生活支援や日本人従業員との関係作りといった多文化共生の社内整備を重ねていくことで、定着につながる体制が整います。
PMI設計の優先順位
外国人労務のPMIは、譲渡実行から1〜2年かけて段階的に整える領域です。優先順位の付け方には筋があり、まず「やらないと在留資格が止まる」計画変更認定・契約承継を最優先に置き、次に「放置すると簿外債務になる」賃金水準・控除の適正化、その後に「定着を底上げする」処遇改善やキャリアパス設計、という順で並べます。逆順——いきなり処遇を厚くしてから手続を慌てて追いかける——にすると、コストだけ先に増えて在留資格が不安定なまま、という最悪の組み合わせになりがちです。育成就労制度の施行が近づくにつれ、この土台の上に新規受入の制度切替・キャリアパスの再設計を重ねていくのが現実的です。
2027年6月までに施行される育成就労制度は、中小事業者にとって大きな運用変更です。M&Aを機に外国人労務の体制を抜本的に見直す機会として捉えることで、買収後の人材確保・定着率向上につなげられる可能性があります。逆に対応を先送りすると、施行後の競合事業者との人材獲得競争で不利になります。
100日プランで外国人労務を入れた結果、優先順位を組み替えた案件
食品加工業の譲渡で、技能実習生・特定技能合わせて22名を抱えていました。買い手側は当初、PMIの100日プランに「賃金規程の見直し」「住居費控除の適正化」「社内通訳の常駐化」「相談窓口の設置」を一気に並べて、外国人労務をまとめて作り変えるつもりでした。筆者が止めたのは、この詰め込みです。譲渡直後の現場は、オーナーが代わっただけでも実習生が「自分たちはどうなるのか」と不安を抱える局面で、そこに処遇や住居の変更を同時にぶつけると、改善のつもりが動揺の引き金になりかねません。
そこで100日では、契約の再締結と賃金水準の適合確認という「やらないと在留資格が危ない」項目だけに絞り、住居費控除の見直しや通訳常駐は、新オーナーが実習生と一度ずつ面談して信頼関係の土台を作ってから着手する順序に組み替えました。実際、面談で出てきたのは「給料より、寮の風呂が壊れたまま放置されている」という生活面の不満で、優先順位の置き所が机上の想定とずれていました。定着の数字がきれいに動いたかどうかより、何を先にやり何を後回しにするかの順序を現場の声で決め直したことが、この案件で効いた判断でした。
まとめ
2027年6月までに施行される育成就労制度は、技能実習生を抱える中小M&Aで新しい労務DD論点になります。在籍状況、監理団体・登録支援機関との契約、賃金条件、計画変更認定の手続、PMI設計——これらを譲渡実行前に潰しておかないと、譲渡実行後に外国人労働者の在留資格継続が困難になる事態が起きえます。とくに計画変更認定は標準2〜3ヶ月、書類差し戻しを考慮すると半年程度かかることもあるため、仲介の標準スケジュールに任せるのではなく、譲渡側・買い手側で早めに動かす必要があります。
育成就労制度の施行は、中小事業者にとって運用の変更を迫られる節目です。M&Aを機に外国人労務の体制を見直すことで、新制度下での競争力を高めることもできれば、対応を先送りして人材獲得で不利になることもあります。譲渡側オーナーが引退する場面で、買い手側が新制度対応の知見を持っていれば、譲渡側も安心して譲渡を進められます。
DD-AXでは、技能実習生・特定技能労働者・育成就労を抱える中小M&Aの労務DDを実施しています。出入国管理法・技能実習法・育成就労制度に詳しい行政書士、外国人労務に強い社会保険労務士、監理団体・登録支援機関とのネットワークを持つアドバイザーと連携し、計画変更認定のスケジュール、契約承継、賃金水準の適合確認、PMI設計を、出入国在留管理局のスケジュール感に合わせて並走します。仲介の標準スケジュールでは外国人労務の手続が組み込まれない、育成就労施行後の対応を見据えたPMI設計が必要、という案件で声をかけていただくケースが増えています。