00.Introduction

はじめに

飲食店・フランチャイズ加盟店のM&A相談は、ここ数年で構造が大きく変わってきました。コロナ禍を経て、人件費・食材費・エネルギー費が継続的に上昇する中で、単独店・小規模チェーンの収益が圧迫されているのが背景です。FC加盟店オーナーは「複数店舗を抱えて運営する体力がない」「最低賃金引上げで人件費が吸収できない」「親世代がオーナーで子息は別の道」という三重苦で、譲渡を選ぶケースが増えています。

飲食・FCチェーンのM&Aが他業種と決定的に違うのは、本部とのFC契約・店舗の賃貸借契約・食品衛生法上の許可——複数の契約と許認可が、店舗ごとに紐づいていて、それぞれ譲渡時の対応が異なる点です。FC本部が支配権変動条項(COC条項)に基づき譲渡を承認しなければ、加盟店契約自体が解除されえます。店舗の定期借家契約が更新時期と重なれば、譲渡後に店舗を失う可能性が残ります。HACCPに沿った衛生管理が形骸化していれば、行政処分のリスクが残ります。決算書の売上・利益だけ見て価格を決めると、譲渡後数ヶ月で前提が崩れる構造です。

飲食・FCチェーンDDの実務的な急所は「FC本部承認とCOC条項」「店舗賃貸借の更新可否」「食品衛生法・HACCP」「食材原価・人件費の構造」の4つです。決算書の店舗別損益より先に、契約と許認可の確認が来ます。

01.Section 01

飲食・FC M&Aの構造——加盟店承継と独立系チェーンの二極化

飲食業界のM&Aは、いくつかのプレイヤーで構成されます。大手外食グループによる中堅チェーンの取得、PEファンドの飲食特化ロールアップ、FC加盟店オーナーから別の加盟店オーナーへの譲渡、独立系チェーンから大手チェーンへの譲渡——それぞれDD論点が異なります。

飲食・FC M&Aの主なパターン

最も多いのは、同じ本部のFC加盟店が他のFCオーナーまたは法人に譲渡される「FC加盟店の承継」で、ここでは本部の承認が中心論点になります。独自ブランドの中堅チェーンがPE・大手外食に譲渡される「独立系チェーンの譲渡」では、商標・レシピの帰属が論点に変わります。一方、FC本部の経営権そのものが他社に移転する「FC本部のM&A」では、加盟店との関係維持が問われ、同業のチェーンが店舗群を取得するケースでは、業態転換・店舗統廃合の計画が前面に出ます。同じ「飲食M&A」でも、誰から誰へ渡るかでDDの重心がまるごと動きます。

譲渡側のオーナーの動機は、表向きは「事業承継」「健康上の理由」「複数事業の選択と集中」と説明されることが多いですが、実態を聞き込むと次のいずれかが進行している事業所が多い。多いのは、最低賃金が継続的に上がる中で価格転嫁が限界に達し、人件費・食材費の上昇を吸収できなくなっているケースです。加えて主要店舗の定期借家の更新が見えていて家賃改定圧力が強い、店舗リニューアル・POSシステム入替・新メニュー研修などのFC本部からの設備投資要請に応じる体力がない、近隣商圏の競合増加・人流変化で主要店舗の集客が長期的に落ちている——こうした事情が重なって譲渡に踏み切る事業所が目立ちます。

/ Field Notes — 現場から

「事業承継」の裏にあった本部のリニューアル要請

FC加盟店4店舗を運営する事業者のDDで、社長から「自分も65歳で後継もいないので譲渡したい」という説明を受けました。直近2期は黒字、純資産も健全で、決算書だけ見れば慌てて手放す理由が見当たりません。引っかかったのは、本部とのやり取りの履歴でした。

本部からの通知文書を時系列で並べると、過去1年で「店舗内装の全面リニューアル」「POS・オーダー端末の入替」を求める要請が繰り返し届いていました。社長に確認すると、4店舗分のリニューアル投資を試算して資金繰りが回らないと判断したのが、譲渡に踏み切った実際のきっかけだったと打ち明けてくれました。「後継不在」は嘘ではないものの、決断を前倒しさせたのは本部要請への資金対応でした。買い手にとっては、譲渡後にこのリニューアル投資が自分に降ってくる話なので、本部に投資の猶予・分割の余地があるかを事前協議に含め、その負担を譲渡対価の交渉材料に組み込みました。「事業承継」という説明をそのまま受け取ると、譲渡直後に控えた本部要請の設備投資を見落とします。

02.Section 02

FC契約のCOC条項——本部承認・名義変更料・競業避止

FC加盟店のM&Aで最も重要な論点が、FC契約に組み込まれている支配権変動条項(COC条項)です。FC本部は加盟店オーナーの選定にブランド管理上の関心を持つため、加盟店の支配権が変わるときに本部の承認を必要とする条項を契約に組み込んでいます。譲渡を進める前に、本部承認のルールと本部の意向を確認することが、FC加盟店M&Aの最初の作業です。

FC契約のDDで確認する軸

まず見るのはCOC条項の内容で、支配権変動時に本部が持つ事前承認権と、不承認の場合の契約解除権を押さえます。次に、譲渡時に本部へ支払う名義変更料・承継手数料の有無と金額、FC契約の残存期間と更新時に契約条件が変更される可能性を確認します。譲渡側オーナー・譲受側に課される競業避止義務の範囲・期間も、譲渡後の事業設計を縛るので外せません。加えて、店舗周辺の専用商圏(テリトリー権)の有無や隣接エリアでの競合出店制限、ロイヤリティ料率・本部からの仕入れ価格・本部負担の販促費といった経済条件まで、契約書を一枚ずつ読み込んでいきます。

FC契約のCOC条項に基づき、本部が譲渡を承認しないリスクが残ります。承認するとしても、高額な名義変更料を要求してきたり、契約条件の見直し(ロイヤリティ料率の引上げ・契約期間の短縮)を条件にすることもあります。これらは、本部によって運用方針が大きく違うため、譲渡実行前に本部との事前協議が必要です。

もう一つの論点が、ロイヤリティ未払いと加盟店保証金の扱いです。FC契約の下では、月次ロイヤリティ・販促費負担金・本部仕入れ代金などの支払義務があり、過去の未払いがある場合は譲渡時に整理が必要です。加盟店保証金(契約時に本部に預け入れる保証金)の返還条件も、契約書で確認します。

/ Field Notes — 現場から

FC本部が高額な名義変更料を要求した案件

FC加盟店の譲渡で、当初FC本部に承認の事前協議を入れたところ、本部から「店舗ごとに名義変更料500万円、3店舗合計1,500万円を要求する」という回答がありました。FC契約には「本部の事前承認を要する」とあるだけで、具体的な金額は明記されていませんでした。

名義変更料は契約に金額が書かれていないため、相場を外から確認する手立てが限られます。今回は、同じ本部の加盟店譲渡を過去に扱った同業の仲介担当者数名にヒアリングし、店舗あたり100〜300万円で着地した事例が多いという感触を集めました。あくまで非公開取引の伝聞ベースなので、これを「相場」と確定はできませんが、500万円という最初の提示が高めである見当はつきました。本部との交渉を継続し、最終的に店舗あたり250万円、3店舗合計750万円で合意しました。譲渡対価は、この本部承認費用を譲渡側負担で調整しました。FC加盟店M&Aで本部との事前協議は、譲渡実行の数ヶ月前から動かないと、譲渡コストの見積りが大きくずれます。

03.Section 03

飲食店営業許可と保健所——スキーム選択と店舗別承継

飲食店営業を行うには、食品衛生法に基づく飲食店営業許可(保健所)が必要です。許可は店舗ごとに取得するもので、M&Aのスキームによって承継方法が異なります

スキーム飲食店営業許可食品衛生責任者
株式譲渡会社に紐づく許可は維持。許可台帳の代表者変更届引き続き選任が必要、変更届
事業譲渡譲受側で店舗ごとに新規許可申請(保健所審査)譲受側で食品衛生責任者を選任
会社分割包括承継だが、自治体運用は要確認引継ぎ届出
合併包括承継により承継。変更届引継ぎ届出

事業譲渡を選択した場合、店舗ごとに新規許可申請が必要です。保健所の審査期間は標準1〜3週間(自治体差あり)ですが、新規申請が混雑する時期は4週間程度かかります。複数店舗の申請が同時並行になる場合、保健所の現地確認・書類審査の都合で時間がかかることがあります。クロージング日と保健所審査スケジュールを店舗別に逆算しないと、譲渡日に営業継続できない店舗が出ます。

食品衛生責任者の選任

飲食店営業許可では、店舗ごとに食品衛生責任者の選任が必要です。食品衛生責任者は、食品衛生協会等の講習を受講した者または栄養士・調理師・製菓衛生師等の有資格者が該当します。M&Aで会社の体制が変わるとき、食品衛生責任者の継続選任ができるかを確認する必要があります。譲渡実行と同時に責任者が退職する場合、新たな責任者の選任と保健所への変更届が必要です。

実務で足をすくわれやすいのが、許可の名義人が誰なのかという基本の確認です。仲介が「株式譲渡だから許可は会社に紐づいたまま維持される」という前提でスキームを組んでいても、許可台帳を取り寄せてみると、創業時の個人事業からの法人成りの過程で許可が当時の個人名義のまま放置されていた、という店舗に何度か当たりました。この場合、株式を取得しても会社が許可を保有していないので、結局その店舗は新規申請が要る。スキーム選択は許可台帳の名義を一店舗ずつ確認してから固めないと、株式譲渡のつもりが一部店舗だけ営業の空白を抱える、という事故につながります。

/ Field Notes — 現場から

5店舗の事業譲渡で保健所審査が想定より時間を要した案件

5店舗運営の飲食事業者の事業譲渡で、仲介会社のスケジュールでは「保健所審査は2週間で取れる」という前提でした。実際に対象自治体に確認すると、新規申請の標準期間は1〜3週間、5店舗で順番に現地確認が入るため、最後の店舗の許可取得まで概ね2ヶ月程度かかる見通しでした。

クロージング日と各店舗の許可取得日を時間軸で並べたところ、最後の3店舗の許可取得がクロージング後にずれ込む構造でした。クロージングを1ヶ月後ろ倒しし、5店舗すべてで新規許可を取得してから譲渡実行する設計に切り替えました。複数店舗を持つ飲食事業の事業譲渡は、保健所スケジュールを店舗別に逆算する作業が必須です。

04.Section 04

店舗賃貸借——定期借家・原状回復・保証金の取扱い

飲食店の事業の中核は、店舗の物理的な場所です。商業ビル・路面店の賃貸借契約の条件は、譲渡後の事業継続性を左右します。とくに大都市圏では、定期借家契約が一般化していて、契約満了時に賃貸人側が更新を拒否することができる構造です。M&AのDDで、店舗別の賃貸借契約を一覧化して確認する作業が必要です。

店舗賃貸借のDDで確認する軸

起点は契約形態の見極めです。定期借家か普通借家か、定期借家であれば更新条項の有無と内容を確認し、そのうえで各店舗の賃貸借残存期間——譲渡実行から満了までの月数を一覧化します。家賃面では、現行家賃と地域相場の比較に加え、CPI連動・周期改定といった改定条項の運用を読みます。預け入れ済みの保証金・敷金については金額・返還条件・譲渡時の取扱いを、退去時には原状回復の範囲(内装スケルトン渡しか居抜き渡しか)を確認します。さらに、支配権変動時に賃貸人の事前承認を要するCOC条項の有無や、転貸禁止条項・本部からの転貸スキームがある場合の整理まで踏み込みます。店舗ごとに条件が違うので、契約を横並びにして潰していく作業になります。

定期借家契約は本来「更新がない契約」で、契約満了時に当事者間で再契約をしない限り終了する建付けです。賃貸人が再契約を拒否すれば、その店舗を失います(普通借家での「更新拒絶」とは法的構造が異なる点に注意)。飲食事業者にとっては最大級のリスクで、M&AのDDで店舗別の賃貸借契約の残存期間を一覧化し、譲渡後3〜5年以内に満了する店舗の再契約可能性を、賃貸人ヒアリングで確認する作業が必要です。

家賃改定条項の運用も論点です。長期契約の場合、契約書上は家賃改定条項があっても運用上は据え置きになっているケースがあり、譲渡を機に賃貸人が改定を要求してくることがあります。「ずっと同じ家賃で済んでいた」が「譲渡後に家賃が20%上がった」という事態は、譲渡対価のバリュエーション前提を崩します。

/ Field Notes — 現場から

主力店舗の定期借家更新で家賃20%引上げを要求された案件

FC加盟店3店舗の譲渡で、最大店舗(売上構成比約50%)の定期借家契約が、譲渡実行の8ヶ月後に満了予定でした。賃貸人にヒアリングしたところ、「再契約する場合は家賃を約20%引き上げたい」「立地的に賃貸需要は強いので、引上げに応じない場合は再契約しない可能性もありうる」という回答でした。

家賃20%引上げ後の店舗損益を試算すると、利益が約30%減少する構造でした。譲渡対価のバリュエーションは、家賃引上げ後の損益で再計算し、当初想定の70%まで下げました。並行して、買い手側で賃貸人との家賃交渉を譲渡実行と並行して進め、引上げ幅を15%に抑える合意を取り付けました。飲食M&Aで主力店舗の賃貸借契約満了が近い場合、譲渡前の賃貸人交渉が譲渡対価に直結します。

05.Section 05

HACCP・食品衛生監視票——簿外リスクとしての衛生管理

2020年6月施行の食品衛生法改正による1年間の経過措置を経て、2021年6月からHACCPに沿った衛生管理が完全義務化されました(出典: 厚生労働省「HACCP(ハサップ)」、農林水産省「改正食品衛生法の概要」2021年6月完全施行)。すべての飲食店事業者は、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理計画書の作成・記録・実施が求められます。中小飲食事業者の中には、形式的に対応しているが実態運用が伴っていない事業所も残っていて、譲渡後に行政処分・食中毒事故が発生すると、買収価値が大きく毀損します。

HACCP・衛生管理のDDで確認する軸

確認の中心は、HACCPに沿った衛生管理計画です。業種別・施設別の衛生管理計画書が整備され、CCP(重要管理点)が特定されているか、そして日々の温度管理・洗浄・消毒・従業員の体調確認が記録として運用されているかを見ます。実態を裏取りするために、過去2〜3年の食品衛生監視票(保健所監視結果)と指導事項の是正状況、過去の食中毒事故・異物混入のクレームとその対応経緯まで遡ります。あわせて、新人研修・定期研修の実施記録や検便等の健康管理といった従業員の衛生管理教育、仕入先の品質管理・保管温度の記録・賞味期限切れの取扱いといった食材の調達・保管も確認します。計画書の有無だけでなく、それが現場で回っているかを突き合わせるのがこの領域のDDです。

HACCPの実態運用は、決算書からは見えません。店舗の現場視察で衛生管理記録を確認し、現場の従業員にヒアリングするのが、DDの実務です。「HACCP対応済み」と言われても、記録が形骸化していたり、実際の作業手順とかけ離れていたりすることがあります。譲渡後に保健所の監視や食中毒事故が発生すると、行政処分(営業停止・改善命令)と信用毀損で、買収価値が瞬時に下がります。

もう一つ確認したいのが、過去の食中毒事故・行政処分の履歴です。これらは表面的には決算書に表れませんが、対象会社のレピュテーションや、譲渡後のリスクとして残ります。保健所への確認・近隣住民の評判・SNS上の言及などを、譲渡前に幅広く確認するのが、飲食M&AのDDの実務です。

/ Field Notes — 現場から

HACCP記録が形骸化していた案件

独立系チェーン4店舗のDDで、現場視察を実施しました。HACCPの衛生管理計画書はファイリングされていましたが、店舗の現場で衛生管理記録(温度確認・洗浄記録)を確認すると、過去6ヶ月分の記録がほぼ同じパターンで埋められていて、実際に毎日記録されていない様子が見えました。従業員にヒアリングすると、「忙しいときは記録を後でまとめて書く」という回答でした。

過去2年で食中毒事故・異物混入のクレームは保健所記録上ゼロでしたが、運用が形骸化している状態では、いつ問題が発生してもおかしくない構造です。譲渡後の100日プランで、HACCP運用の再構築・現場研修・記録のデジタル化(タブレット記録)を最優先項目として組み込みました。譲渡対価のバリュエーションは、HACCP運用の改善コストを別建てで控除しました。HACCPは「整備されているか」だけでなく「実態運用されているか」が問われる領域です。

06.Section 06

食材原価・人件費・最低賃金——収益構造の真実

飲食事業の収益構造は、食材原価率(売上に対する食材費比率)と人件費率の2大コストで決まります。筆者が現場で見るレンジでは、食材原価率は業態によりおおむね25〜40%、人件費率は25〜35%あたりに収まることが多いですが、業態差が大きいので、固定の目安というより対象会社ごとに当てる前提の数字です。M&AのDDでは、これらの比率の構造的な変動と、最低賃金引上げの影響を、店舗別・業態別に確認する作業が中心になります。

食材原価・人件費のDDで確認する軸

原価側では、過去24〜36ヶ月の月次食材原価率を業態・店舗別に並べ、主要食材の仕入先・契約条件・単価変動の経時データを追います。FCの場合は、本部仕入れ義務の対象食材と外部調達の比率——本部仕入れへの依存度も確認します。人件費側では、正社員・パート・アルバイトの構成比を最低賃金と相対比較しながら推移を見て、来期以降の最低賃金引上げが人件費率と店舗利益にどう効くかを試算します。加えて、特定技能・留学生アルバイト等の在留資格別人員と譲渡後の継続条件まで押さえておかないと、人手の前提が崩れたときに収益計画ごと狂います。

食材原価率と人件費率は、業態によって大きく変動します。同じ「飲食店」でも、ファストフードと居酒屋とレストランでは原価構造が違います。M&AのDDで、業態別の業界平均と対象会社の数字を比較し、なぜ平均から乖離しているかを掘り下げる作業が必要です。「原価率が業界平均より低い」という説明は、「メニュー設計が良い」のかもしれないし、「食材グレードを下げている」のかもしれない。前者は維持可能だが、後者は顧客満足度の長期低下リスクです。

最低賃金引上げの影響は、譲渡後の収益見通しに直接効きます。地域別最低賃金は毎年10月頃に改定され、近年は引上げ幅が大きく、令和6年度(2024年度)は全国加重平均で過去最大の引上げとなりました(出典: 厚生労働省「令和6年度地域別最低賃金改定状況」)。人件費率が30%の事業者で時給が5%上がれば、人件費率は約1.5ポイント上昇します。譲渡実行時のバリュエーションが、来期以降の最低賃金引上げを織り込んでいないと、譲渡後の利益が想定より下がる構造になります。

/ Field Notes — 現場から

食材グレード変更で原価率を下げていた案件

独立系飲食チェーンのDDで、過去24ヶ月の食材原価率は、同じ業態でこちらが普段見る水準より3ポイントほど低いところで安定していました。社長に経緯を聞くと、「仕入れ先と価格交渉して下げてもらった」という説明でした。原価率が低いこと自体は本来歓迎すべき話ですが、業態の標準からの乖離が説明より大きいと、何かを削っている可能性を疑います。実際に主要食材の仕入伝票を遡って確認すると、12ヶ月前から主力食材のグレードを下げていることが分かりました(産地変更・等級変更)。

顧客の口コミ・SNS上のレビューを直近で調べると、「以前と味が違う気がする」「具材が少なくなった」というコメントが散見されていました。リピート率の月次推移を確認すると、グレード変更後の数ヶ月から、リピート率が緩やかに低下していました。原価率の改善は構造的なものではなく、顧客満足度を犠牲にした一時的なコスト削減だったわけです。バリュエーションは、グレードを元に戻して原価率が従前水準まで戻った場合の損益で再計算しました。飲食DDで原価率の数字を見るときは、その数字の作り方まで確認する作業が必要です。

/ Summary

まとめ

飲食・FCチェーンのM&Aは、決算書の店舗別損益だけでは判断材料が足りません。FC本部のCOC条項と承認、店舗賃貸借の更新可否、飲食店営業許可の承継スキーム、HACCPの実態運用、食材原価と人件費の構造——どれも譲渡実行前に潰しておかないと、譲渡後の数ヶ月から1年で経営計画の前提が崩れます。とくにFC加盟店M&Aでは本部承認、店舗賃貸借(とりわけ定期借家の再契約拒否)、HACCPの行政処分が、それぞれ独立した「譲渡対価を消す要因」として残ります。

最低賃金引上げ・食材費・エネルギー費の構造的な上昇が続く中で、買い手にとっては良い案件を取得する機会が増えていますが、同時に譲渡側の運用に潜む契約・許認可・衛生・原価のリスクを抱え込む可能性も上がっています。FC契約一式・店舗別賃貸借契約・保健所監視票・主要食材の仕入伝票・店舗別損益・HACCP記録——これらを譲渡前に並べて確認することが、飲食・FC M&Aの実務では欠かせません。

DD-AXでは、飲食・FCチェーンのビジネスDD・IT-DDを中小M&Aの規模感で実施しています。FC契約に詳しい弁護士、店舗不動産に強い宅建士、HACCP運用に踏み込める食品衛生コンサルのネットワークと連携して、契約・賃貸借・衛生・原価の論点を初期段階から潰し込む設計です。仲介会社のスケジュールに不安がある、買い手側の飲食業界知見が薄いという案件で、声をかけていただくケースが増えています。

飲食・FCのDDも、店舗賃貸借やFC契約のCOC・定期借家条項の抽出はAIで定型処理でき、本部承認の要否やHACCP対応の判断は専門家が握る。この分担なら大手より速く・安く品質を保てます(業種特化DDをAIで安く・速く回す方法)。