00.Introduction

はじめに

M&Aの実務で「株式譲渡か事業譲渡か」というスキーム選択は、税務・契約承継・労務承継の論点で語られることが多い。ただし許認可業種では、これに加えて「許可が承継できるか・空白期間が出るか」という論点が、ほかのどの論点より優先されるべき場面が多くあります。仲介会社の標準スケジュールが「事業譲渡で3ヶ月後にクロージング」と組まれている案件で、許認可の取得スケジュールが間に合わず、譲渡日に営業停止——という事態は、許認可業種のM&Aで実際に起きえます。

許認可の承継は、業種ごとに大きく違います。会社に紐づく許可は株式譲渡で原則自動承継、事業に紐づく許可は事業譲渡で再申請、人に紐づく許可は譲渡側・譲受側双方で人材を確保しないと承継不可。建設・運送・調剤・派遣・宅建・警備・飲食・保育・介護——これら9業種をそれぞれ深掘りした記事は別途公開していますが、本稿はM&Aスキーム選択の判断軸として、許認可承継の比較を一覧化する位置付けです。

許認可業種のM&Aで「事業譲渡で進める」決断をする前に、許認可ごとの承継方法と申請スケジュールを並べる作業が必要です。スキーム選択の決定は、許認可の確認が終わってからが安全な順序です。

01.Section 01

なぜ「株式譲渡か事業譲渡か」がM&A最大の論点になるのか

M&Aのスキーム選択を、税務メリット・契約承継・労務承継の3軸だけで考えると、許認可業種では肝心なところを見落とします。基本の4スキームを許認可の観点で並べておくと、判断が変わります。まず株式譲渡は、会社の株主が変わるだけで会社そのものは存続するため、会社に紐づく許認可は原則として承継されます。これに対して事業譲渡は、事業の中身(資産・契約・従業員等)を譲受側が買い取る形で、会社が変わるため、許認可は譲受側で新たに手続が要るものが多い。ただし「新規取得=空白が出る」と一括りにはできません。建設業・運送業のように2020年前後の法改正で事前認可(承継認可)制度が整備された業種では、譲渡日の前に認可を取っておけば、許可を空白なく引き継げます。一方で薬局や派遣業のように新規申請扱いになり、許可が下りるまで営業できない空白が出る業種もあります。事業譲渡で空白が出るか出ないかは、業種ごとの承継認可制度の有無で分かれる、というのが正確な整理です。会社分割は、包括承継の効果として許認可が承継されると解されますが、自治体・許可機関ごとに運用差があります。合併も包括承継として許認可が承継されますが、合併認可申請が必要な業種もあります。

この4つの整理が頭に入っていれば、「事業譲渡だから簡単」「株式譲渡だから複雑」という単純化は逆になることが見えてきます。許認可業種では、株式譲渡の方が「許可が止まらない」というメリットが大きい。一方で、事業の一部だけ譲り受けたい買い手にとっては事業譲渡を選びたいが、その場合は許可の再取得スケジュールがクリティカルパスになります。

もう一つ重要なのが、人に紐づく許可です。建設業の経管・専技、運送業の運行管理者、調剤薬局の管理薬剤師、宅建業の専任宅建士、警備業の指導教育責任者——これらの「人」が譲渡で離れると、いくらスキームを工夫しても許可が維持できなくなります。スキーム選択と人材確保は、セットで考える必要があります。

/ Field Notes — 現場から

株式譲渡に逃げられず、承継認可の前倒しで凌いだ運送業案件

運送業のM&Aで、仲介会社から「事業譲渡なら譲受側の取得時の費用化が早い」「株式譲渡だと簿外債務リスクを引き受けることになる」という説明があり、当初は事業譲渡で進める設計でした。ただし運輸局の事業譲渡認可の標準処理は2〜3ヶ月かかります。クロージング日まで2.5ヶ月の段階で、認可申請の書類差し戻しが2回続き、間に合うかどうかが綱渡りになりました。

ここで定石どおり株式譲渡へ切り替えようとしたのですが、できませんでした。対象会社には連絡の取れない少数株主が数%残っており、全株を集められない。加えて過去の事故に絡む損害賠償の係争と未払残業の引当不足が見つかり、買い手の与信部門が「会社ごと引き受けるのは無理だ」と株式取得を拒否しました。株式譲渡という逃げ道が両側から塞がれた格好です。結局スキームは事業譲渡のまま、運行管理者を譲渡実行前に譲受側へ転籍させて事前認可の要件を先に固め、認可が下りる日に合わせてクロージング日を後ろへずらすという、地味で時間のかかる組み立てで通しました。譲渡側の社長が「早く現金化したい」と苛立つのを、認可の見込みが立つまで毎週説明して待ってもらった案件です。スキームの教科書的な逃げ道がいつも使えるわけではない、と痛感した一件でした。

02.Section 02

業種別の許認可承継一覧——空白期間が出る業種・出ない業種

主要9業種のスキーム別の承継可否を一覧化すると、次のようになります。実務上、自治体・許可機関ごとに運用差があるため、最終確認は必ず個別の所管庁に行います。

業種・許認可株式譲渡事業譲渡
建設業許可承継(変更届)承継認可申請(譲渡日前)
一般貨物自動車運送事業許可承継(役員変更届)事業譲渡認可申請(譲渡日前)
薬局開設許可変更届で承継新規許可申請(保健所審査)
保険薬局指定原則変更届。事業譲渡では再指定が必要なケースあり(厚生局運用差)厚生局による新規指定(空白期間あり)
労働者派遣事業許可承継(変更届)新規許可申請(許可までの空白で派遣不可)
有料職業紹介事業許可承継(変更届)新規許可申請(許可までの空白で紹介不可)
宅地建物取引業免許承継(変更届)新規免許申請(標準1.5〜2ヶ月)
警備業認定承継(変更届)新規認定申請
飲食店営業許可・食品衛生承継(変更届)新規許可申請(保健所審査)
認可保育所原則承継(自治体差大)自治体の新規認可手続が必要なケース多い
介護事業(指定)原則承継(変更届)新規指定申請(標準2〜3ヶ月)

この一覧で見えるのは、株式譲渡では「承継+変更届」で済む業種がほとんどなのに対して、事業譲渡では新規申請(または承継認可)が必要で、申請から承認までの期間が業種によって2週間から3ヶ月程度かかるという構造です。クロージング日からの逆算で、申請開始のタイミングを設計しないと、譲渡日に許認可が間に合いません。

同じ事業譲渡でも、建設業・運送業のように承継認可(事前認可)制度が整備されている業種では、譲渡日の前に認可を取っておけば空白なしで許可を引き継げます。これに対して薬局指定・派遣業許可・介護指定などは新規申請の扱いになり、許可が下りるまでの空白が出るうえ、自治体・許可機関の運用に依存する部分が大きい。会社分割や合併も業種ごとに承継方式が異なります。スキーム選択時には、対象業種の承継認可制度の有無を、初期段階で確認しておく必要があります。

/ Field Notes — 現場から

派遣業の事業譲渡で2ヶ月の空白を作りかけた案件

労働者派遣業の中堅事業者の事業譲渡で、譲受側が派遣業未経験の異業種参入でした。仲介会社のスケジュール表では、派遣業許可の新規申請を「クロージング1ヶ月前」と設計していました。労働局の標準処理期間を確認すると、新規許可申請から許可まで概ね2〜3ヶ月、財産要件(資産・現預金・基準資産額対比の各要件)と事業所要件(独立性・面積等)の確認で書類差し戻しが起きやすい構造です。派遣業の財産要件は事業所の数を基準に判定される(1事業所あたりの額に事業所数を乗じて加算する)もので、会社単位のフラットな固定値ではない点に注意が要ります。具体的な基準額や暫定・緩和措置の運用は改正で動くため、申請時点の最新要件を所管の労働局に必ず確認します。

このスケジュールでは、譲渡日から派遣業許可取得までの間、派遣事業を継続できない構造でした。スポット派遣の月次売上は約8,000万円。約2ヶ月の空白で売上が消える計算です。最終的にスキームを株式譲渡に切り替え、簿外リスクは表明保証と特別補償で対応する設計に組み直しました。派遣業の事業譲渡を進めるなら、譲受側の許可取得スケジュールを譲渡日の3ヶ月以上前から動かす必要があります。

03.Section 03

「人」に紐づく許可——資格者の常勤性が承継の鍵を握る業種

許認可業種の中でも、特定の有資格者の常勤配置を要件としている業種では、譲渡で資格者が抜けると許可そのものが維持できません。スキーム選択以前に、人材の確保がM&Aの成立条件になるパターンです。

「人」に紐づく主要許可

業種ごとに、どの資格者の常勤配置が要件になるかを押さえておきます。建設業では経営業務管理責任者(経管)・専任技術者(専技)が要で、中小ではオーナーが兼任していることが多く、譲渡時に空席化しやすい。運送業は運行管理者・整備管理者を要し、運行管理者は事業用自動車数を30で除した数(小数点切り捨て)に1を加えた数以上の選任義務があります(貨物自動車運送事業輸送安全規則18条)。調剤薬局では管理薬剤師が店舗ごとに常勤する必要があり(薬機法第7条)、希少人材ゆえ離職リスクが高い。宅建業の専任宅建士は事務所の業務従事者5名に1名以上の設置義務で、退職で要件割れすると業務停止になります。警備業は警備員指導教育責任者を営業所ごとに選任する必要があり、機械警備を行う場合は機械警備業務管理者も別途必要です。介護事業ではサービス提供責任者・管理者・看護職員等を、常勤換算での人員基準で満たすことが求められます。

「人」に紐づく許可では、株式譲渡で形式的に許可を承継できても、資格者本人が譲渡をきっかけに離職すれば、許可要件が崩れます。譲渡側のオーナー本人が経管・専技・管理薬剤師を兼ねている場合、譲渡実行と同時に人がいなくなる構造です。譲渡前に後継候補の育成、または譲渡側オーナーの一定期間の残留契約を、クロージング条件に組み込む必要があります。

もう一つ確認したいのが、譲受側の人材確保です。譲受側がもともと許可業種を運営していない場合、許可要件を満たす資格者を社内で確保する必要があります。とくに事業譲渡で新規申請する場合、譲受側に経管・専技・運行管理者等の資格者が常勤で在籍していなければ、申請自体が受理されません。譲受側の人材状況を、譲渡側のDDと並行して確認するのが、許認可業種M&Aの実務です。

/ Field Notes — 現場から

異業種参入で経管要件を満たせなかった案件

建設業の事業譲渡で、譲受側は不動産業を主とする異業種でした。建設業許可の取得には、経管要件「建設業の経営経験5年以上の常勤者」が必要です。譲受側の役員・従業員を確認したところ、要件を満たす人材が一人もいませんでした。譲受側として外部から経管要件を満たす人材を採用する計画でしたが、採用市場では希少な経歴で、内定取得まで3ヶ月以上かかる見通しでした。

スキームを再検討し、譲渡側の社長を譲渡実行後3年間の常勤雇用契約で残ってもらう設計に組み直しました。譲渡側社長は譲渡対価の一部を受け取りつつ、譲渡後3年間の経管役を担い、その間に譲受側で経管候補を育成するという建付けです。経管要件は、譲渡側のキー人材の引き留めとセットで考えないと、いくらスキームを工夫しても許可が下りません。

04.Section 04

申請から認可までの実務スケジュール——逆算で動かないと間に合わない

許認可業種のM&Aで、最も多い失敗が「クロージング日からの逆算が甘い」というパターンです。仲介会社の標準スケジュールは、許認可業種の現実とずれていることがあります。業種別の標準処理期間を、目安として頭に入れておくと、クロージング日設定の判断が変わります。

主な許認可の標準処理期間(目安)

以下の期間は、各所管庁(国土交通省・地方運輸局・都道府県・保健所・労働局・地方厚生局・市区町村など)が公表する標準処理期間を目安として並べたものです。標準処理期間は所管・年度・改正で動くため、実際の申請前には対象の所管が公表する最新の値を確認してください。建設業承継認可は概ね2〜3ヶ月で、譲渡日の3ヶ月前申請が標準です。なお建設業の承継認可(事業譲渡前の事前認可)は2020年の建設業法改正で新設された制度で、運用がまだ新しく、所管行政庁により審査の所要が読みにくい点に留意します。運送業の事業譲渡認可も概ね2〜3ヶ月ですが、書類差し戻しを考慮すると4〜6ヶ月を見るのが現実的。薬局の新規開設許可は保健所審査で概ね1〜2ヶ月、これに加えて保険薬局指定が厚生局で標準2ヶ月程度かかります(地方厚生局・自治体により運用差あり)。派遣業の新規許可は労働局審査で概ね2〜3ヶ月で、財産要件・事業所要件で差し戻しが起きやすい。一方で宅建業の新規免許は都道府県・国土交通省で概ね1.5〜2ヶ月、飲食店営業許可は保健所で1〜3週間程度(自治体差あり)と比較的短く、介護指定は自治体審査で標準2〜3ヶ月かかります。

これらの期間は「標準処理」であり、書類差し戻しがあると倍以上に延びます。クロージング日の設定は、申請開始日と標準処理期間+差し戻し余裕を逆算して決めるのが安全です。仲介会社の標準スケジュールが「クロージング3ヶ月前」と組まれていても、対象業種の許認可承継スケジュールが間に合わなければ、後ろ倒しの判断が必要になります。

許認可スケジュールを逆算するときに、忘れがちなポイントがあります。譲受側の準備期間です。事業譲渡で新規許可を申請する場合、譲受側は申請書類の作成・財産要件の充足・人材確保・事業所準備を進める必要があります。これらに少なくとも2〜4週間、業種によっては数ヶ月かかります。仲介会社が「クロージング3ヶ月前から動く」と言っているスケジュールでは、譲受側の準備期間が組み込まれていないことが多い。

/ Field Notes — 現場から

介護事業譲渡で新規指定が間に合わずクロージングを後ろ倒しした案件

訪問介護事業者の事業譲渡で、当初のクロージング日は3ヶ月後に設定されていました。譲受側が新規指定申請をする計画で、自治体の標準処理期間は2.5ヶ月程度。書類差し戻しを考慮すると3ヶ月では確実に間に合わない見通しでした。譲渡実行後の介護報酬請求の空白期間が2〜3ヶ月発生する可能性が見えました。

5拠点合計の月次介護報酬請求額は約4,500万円。空白期間で1億円超の運転資金圧迫が見込まれました。最終的にクロージング日を3ヶ月後ろ倒しし、新規指定の取得を譲渡日に先行させる設計に切り替えました。譲渡側は「早く譲渡を完了させたい」、譲受側は「指定空白での譲渡は受け入れられない」、両者の利害を仲介会社のスケジュールが調整しきれない場面で、許認可スケジュールの逆算が判断材料になります。

05.Section 05

仲介会社の標準スケジュールに乗らない業種——独自の確認が必要なポイント

仲介会社(M&A仲介・FA)の標準スケジュールは、業種を問わず「LOI→DD→クロージング」を3ヶ月から半年で組むのが通例です。ただし許認可業種では、このスケジュールが現実と乖離するケースがあります。とくに次の業種では、初期段階から個別の確認が必要です。

仲介標準スケジュールに乗りにくい業種・状況

とくに次の業種・組み合わせは、初期段階から個別の確認が要ります。運送業×事業譲渡では、運輸局の事業譲渡認可は時間がかかりやすく、書類差し戻しも頻発します。調剤薬局×事業譲渡は、薬局開設許可と保険薬局指定の二重申請になり、麻薬小売業者免許も別途必要です。派遣業×事業譲渡では財産要件・事業所要件で差し戻しが起きやすく、介護事業×事業譲渡は自治体ごとに運用差が大きく事前協議が長引きます。建設業×異業種参入は、譲受側で経管・専技を確保するスケジュールが買収成立の前提になります。業種そのものに注意が要る例として、認可保育所は自治体の認可基準・補助金制度が複雑で、譲渡時に運営事業者変更の認可手続が必要です。医療法人は、都道府県知事の認可(合併・分割等)、出資持分の評価、MS法人取引の整理など、複数の論点が絡みます。

これらの業種で仲介会社の標準スケジュールに乗ったまま進めると、許認可スケジュールが間に合わずに譲渡日に営業停止——という事態が起きえます。買い手として、仲介会社のスケジュールを「初期案」として受け取り、対象業種の許認可スケジュールを別途確認してから、最終的なクロージング日を合意するのが安全な順序です。

もう一つの落とし穴が、仲介会社が「事業譲渡を勧める」傾向です。仲介報酬は移動総資産や譲渡価額をベースに算定されるのが一般的で、スキームによる報酬差は案件次第なので「事業譲渡だから手数料が動かしやすい」と一律には言えません。ただし筆者の観測では、簿外債務を切り離せる・対象資産を限定できるといった理由で、買い手の納得を得やすく案件を前に進めやすいスキームとして事業譲渡が初手で提案される場面はあります。税効率の説明も売り手・買い手双方に分かりやすい。ただし許認可業種では、その説明が許認可の空白期間を見落とす方向に働くことがあります。買い手側で「許認可の安全性」を独立に評価できないと、仲介会社の提案を額面通り受け取って後で困る、というパターンが繰り返されます。

/ Field Notes — 現場から

飲食店M&Aで保健所審査が想定より時間を要した案件

5店舗運営の飲食店事業者の事業譲渡で、仲介会社のスケジュールでは「飲食店営業許可は2週間で取れる」という前提で、クロージング日が3ヶ月後に設定されていました。実際に対象自治体の保健所に問い合わせると、審査期間は標準1〜3週間ですが、新規申請が混雑する時期は4週間かかることもある、というのが運用でした。さらに、5店舗それぞれで設備の現地確認が入るため、店舗順番を考慮すると最大2ヶ月かかる見通しでした。

各店舗の保健所申請を時間軸で並べたところ、最後の店舗の許可取得がクロージング日の1週間後になる構造でした。3店舗で運営許可を再取得しないまま営業継続するか、クロージング日を1ヶ月後ろ倒しするか、の選択でした。最終的にクロージング日を後ろ倒しし、5店舗すべてで新規許可を取得してから譲渡実行する設計に切り替えました。「飲食は2週間」という仲介会社の説明は、店舗数と申請混雑期によって現実から大きくずれることがあります。

06.Section 06

スキーム選択でリスクが変わる4つの組み合わせ——買い手の判断軸

許認可業種のM&Aで、スキーム選択の判断は次の4つの組み合わせで整理できます。買い手の状況・買収目的・譲受側の体制によって、最適なスキームが変わります。

4つの組み合わせとリスク

スキームと買い手のタイプを掛け合わせると、リスクの軽重がはっきり見えてきます。株式譲渡×同業買収は、許可が維持され、税効率はやや劣るものの簿外債務リスクを表明保証で対応する一般的な組合せで、許認可業種では最も安全です。株式譲渡×異業種買収も許可は維持されますが、譲受側で対象業種を運営する体制(経管・専技・管理薬剤師など)が必要になり、人材確保がクリティカルパスになります。事業譲渡×同業買収は許可が再申請になり、譲受側で同業の許可・人材があれば申請は通りやすいものの、空白期間の運転資金が要ります。そして事業譲渡×異業種買収が最もリスクの高い組合せで、許可の新規取得・人材確保・事業所要件の整備が同時並行になり、スケジュールが破綻しやすい。

買い手として、自社の状況がこの4つのどこに位置するかを、初期段階で整理することが、スキーム選択の出発点です。「事業譲渡×異業種買収」を仲介会社が提案している場合、許認可の取得スケジュールと人材確保が間に合うかを、譲渡前に独立に評価する必要があります。

もう一つの判断軸が、買い手の戦略目的です。「会社全体を取りたい」のか「特定の事業所だけ取りたい」のかで、スキーム選択は変わります。後者であれば事業譲渡が望ましいが、許認可スケジュールが間に合わなければ、いったん株式譲渡で取得してから不要事業を売却・廃止する2段階方式も選択肢になります。スキームの選択肢は、税効率・契約承継・許認可・人材の4軸で評価して、譲受側にとって最もリスクが小さい組合せを選ぶのが実務です。

/ Field Notes — 現場から

「異業種×事業譲渡」を「異業種×株式譲渡」に切り替えた案件

製造業を本業とする事業者が、地方の建設会社を取得する案件で、当初は「建設業の許可と人材を取りたい」「不動産・遊休資産は不要」という理由で事業譲渡を希望していました。ただし建設業許可の承継認可は譲受側で経管・専技を確保していることが要件で、譲受側に該当人材が一人もいませんでした。経管要件を満たす人材を外部採用する計画でしたが、3ヶ月以内の確保は現実的に困難でした。

最終的にスキームを株式譲渡に切り替え、譲渡側のオーナー社長を譲渡後2年間の常勤雇用契約で経管役として残し、譲渡後に不要資産(不動産・遊休機械)を売却する2段階方式で進めました。許認可業種では、買い手の希望スキームをそのまま実行できないことがあり、譲受側の体制と許認可要件をセットで考えた組み直しが必要になります。

/ Summary

まとめ

許認可業種のM&Aで、スキーム選択は税効率・契約承継・労務承継だけで決められません。許認可の承継可否、空白期間の有無、人材要件の充足、申請から認可までのスケジュール——これらを並べたうえで、最もリスクの小さい組合せを選ぶのが実務の手順です。仲介会社の標準スケジュールは初期案として有用ですが、対象業種の許認可現実と乖離していることがあるため、買い手側で独立に確認する姿勢が要ります。

「事業譲渡が税効率が良い」という説明は、許認可業種では許認可の空白期間と相殺されて、実質的にメリットが消えることがあります。本記事で扱った9業種以外でも、許認可業種ではほぼ同じ構造があります。スキーム選択の決定は、許認可の確認が終わってからが安全な順序、というのが筆者の経験から繰り返し言えることです。

DD-AXでは、許認可業種のM&AのDDを中小M&Aの規模感で実施しています。建設業・運送業・調剤薬局・介護・歯科医院・派遣・警備・飲食・保育の各業種に詳しい行政書士・社会保険労務士・税理士のネットワークと連携して、スキーム選択と許認可承継の論点を初期段階から潰し込む設計です。各業種の個別記事も併せて公開しています。仲介会社のスケジュールに不安がある、許認可業種の知見が薄いという案件で、声をかけていただくケースが増えています。